チェスプレイヤーとしての羽生善治

将棋棋士として知られている羽生善治氏のチェスプレイヤーとしての一面についてです。

羽生善治氏は歴代の将棋棋士の中で最も強く、最も知名度も高いと言っても過言ではありません。

例えば名人、竜王、王将、王位、王座、棋聖、棋王の7大タイトルを全て同時に保持する7冠王は歴代で羽生善治氏しか経験していません。さらに2017年12月には永世竜王を獲得し、ついに永世7冠となりました。もちろんこれも羽生氏のみが達成している偉業です。
(2023年追記:2023年10月に藤井聡太8冠王が誕生したため、唯一の全冠独占経験者ではなくなりました。ただし永世7冠は依然として羽生氏のみです。)

また通算の獲得タイトル数でも40代前半には大山康晴氏を抜いて歴代1位となっており、現在も記録は伸び続けています。

羽生氏の将棋棋士としての実績は他にも数多くあり、枚挙に暇がありません。

そんな羽生氏ですが国内最強クラスのチェスプレイヤーという一面も持ち合わせています。世界中を飛び回り、ある時はグランドマスターを撃破したり、ある時は定跡を変えたりと将棋から離れてもその超人っぷりはいかんなく発揮されています。



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チェスプレイヤーとしての羽生善治

概要

羽生善治氏の趣味がボードゲーム全般ということは比較的有名ですが、その中でもチェスは特に熱心に取り組まれています。

羽生氏がチェスを始めたのは七冠王となった頃(25~26歳、1996年前後)であり、チェスのトッププレイヤーの中ではかなり始めるのが遅い部類に入ります。

しかし将棋で鍛えた頭脳と、忙しい合間を縫っての勉強によってどんどん強くなり、国内大会でも優勝したりするまでになりました。

1999年~2000年代中盤頃には積極的に海外大会へ参加しており、この間にレーティングを大幅に上げFIDEマスターというチェスのタイトルも獲得しています。

そして2007年にはプレイヤーの実力を表すレーティング値が国内最高値となり、羽生善治氏がランキングの上でも日本国内で最も強いチェスプレイヤーとなりました。

それ以降もほぼ国内では1位か2位のレーティングを保持しています。

関連ページ:【2020年最新版】日本のチェスのレートランキング【昨年1位の中学生は!?】

伝説:グランドマスターを倒してチェスの定跡を変えた

チェスプレイヤーの羽生善治氏を語る上で外せないのが「チェスの定跡を変えた」という話です。

その棋譜とは2005年のEssent Openという大会でのもので、相手はピーター・K・ウェルズ(Peter K Wells)氏というイギリスのグランドマスターの方でした。

peter_k_wells
Peter K Wells

白番(先手)ウェルズ氏、黒番(後手)羽生氏で始まった対局は、羽生氏が黒番の時に最も得意としているセミ・スラブ・ディフェンスという形になりました。

そしてそこから少し進み8手目でウェルズ氏がe2にビショップを引いたのが次の図です。

8_1Be2

図1:途中までの局面

この手に対して黒は通常はビショップをb7にすることが一番多く(下図)、他にもビショップをe7とする手やa6にポーンを突く手などがあります。

8_2Bb7

参考図:今までの定跡

しかし羽生氏はここでビショップをd6へ移動させるという手を選択しました。最終的にこの手が勝負を決める強襲手を生み出すことになり羽生氏が快勝しました。

8_2Bd6

図2:羽生氏の新定跡

羽生氏がチェスの定跡を変えたという話は、このビショップd6という手のことを言っており、この手自体はビショップにひも(タダで取られないようにするための他の自分の駒からの攻撃判定)がつかない状態になるため、あまり好んで指すようなではないとされていました。

しかしこの対局で羽生氏が勝利したため、今までの評価が変わったという訳です。

関連ページ:チェスで羽生善治氏が勝ったグランドマスター一覧

ランキングとレーティング

チェスのレートシステムの概要

チェスについてランキングやレーティングという話をする場合、通常それらはFIDEという組織が発表しているチェスプレイヤーランキングおよびレーティングを指します。

FIDEは、将棋の日本将棋連盟のチェスバージョン(世界版)みたいな感じです。

レーティングというのはその人のチェスの強さを数値で表したもので、ドラゴンボールの戦闘力のようなものだと思えば分かりやすいでしょうか。

数値が大きくなるほど強く、日本最強クラスで2400前後、世界チャンピオンクラスだと2800~2850程度です。

そしてこのレーティング順にプレイヤーを並べたのがランキングです。

レーティングやランキングに関して詳しくは別ページで解説しています。

関連ページ:世界一や日本一は誰?チェスのレーティングとランキング

羽生氏のレーティングとランキング

それでは羽生氏のランキングやレーティングを見てみましょう。以下の図が2021年6月時点での日本国内のランキングとレーティングです。

羽生氏は2399ポイントで国内第2位です。ただし2016年からレートが変動しておらず、この時点では非アクティブプレイヤーなので本来はランキング外の扱いです。

また第5位には同じくプロの将棋棋士の青嶋未来四段、第8位には永世名人資格者の森内俊之九段の名前もあります。

ちなみに羽生氏は2015年1月時点では国内ランク1位のレーティングを保持していました。
以下の図は2015年1月の国内ランキングとレーティングです。

20150114001

この図の中でも1位の羽生氏と共に森内俊之氏が国内ランク5位にいます。

森内氏は2016年のランキングに名前が無かったので、そのあたりで非アクティブプレーヤーとなったようです。

またランク7位にワタナベアキラさんという方がいらっしゃいますが、プロ将棋棋士で永世竜王資格保持者の渡辺明氏とは別人です。

ちなみに非アクティブながら2399というレーティングを保持する羽生氏ですが、世界ランクでは3300位前後です。

これを低いとみるか高いとみるかは人それぞれですが、世界で競技人口7億人といわれるチェスで3300位と考えるとそのすごさはわかるはずです、しかも本業ではなく趣味で。

関連ページ:【2020年最新版】日本のチェスのレートランキング【昨年1位の中学生は!?】

チェスのタイトルについて

将棋の場合、タイトルといえば8大タイトルである名人、竜王、叡王、王将、王位、王座、棋聖、棋王や某TV局主催の早指し戦の優勝者であるNHK杯選手権者などが有名です。

これらはその大会を優勝した、またはチャンピオンに挑戦し勝利した場合に獲得できるものですがチェスの場合のタイトルというのはこれらとはシステムが異なります。

チェスのタイトルの場合は、一定条件を達成することで獲得することができます。仕組みとしてはプロ将棋の段位システムがかなり近いといえるでしょう。

チェスのタイトルには達成条件の難しい順にグランドマスター(GM)、インターナショナルマスター(IM)、FIDEマスター(FM)、キャンディデイトマスター(CM)の4つがあり、これらが国際チェス連盟のタイトルとなっています。

羽生さんは現在FIDEマスターを保持しており、さらに上位のインターナショナルマスターの条件もほとんど達成しているので近いうちに昇格すると思われます。

関連ページ:【グランドマスター】チェスの称号と取得条件一覧【インターナショナルマスター・FIDEマスター】

羽生氏がチェスに熱心な理由の考察

羽生氏がここまでチェスに熱心なのは、単純にチェスが将棋に似ているとかという理由だけではなく、自分よりも格上と戦える、完全な挑戦者として挑めるという理由があると考えられます。

というのも知ってのとおり将棋棋士として羽生氏は抜きんでる実力を誇り、チェスを始めた1996年頃というのは7冠独占をしていた頃で将棋界は完全に羽生氏の1強状態でした。

もちろん森内氏、佐藤康光氏、郷田氏といったいわゆる羽生世代と呼ばれる競合棋士たちや永世名人である谷川氏もいましたが、やはり羽生氏は別格でした。

つまり「プロ将棋界で対等以上の棋士がいない=自分よりも強い相手に挑戦することができない」という状態が2010年台前半ぐらいまで続いていたのが羽生氏の将棋だったのです。

関連ページ:【AIの答え】将棋で歴代最強は羽生善治

一方でチェスであれば世界には3000人程度以上は羽生氏より明らかに格上といえる相手がいます。

さらにランキングに載っていないだけでかなりの実力をもつチェスプレイヤーもかなりいます。

例えばチェス界の伝説的なプレイヤーの一人であるガルリ・カスパロフ氏は既に引退しているためレーティング表には載っていませんが、今でも2800程度のレーティングの強さといわれています。これはランキングで言えば世界でも1桁の順位です。

2014年にはニコニコ動画で「羽生善治VSガルリ・カスパロフ」というスペシャルチェスマッチが組まれました。

結果はカスパロフ氏が2戦2勝でしたが、その感想戦で羽生氏が熱心にそしてうれしそうにカスパロフ氏に多くのことを聞いていたのが印象的でした。

このように挑戦者として強者と戦えるという点が羽生氏にとってのチェスの大きな魅力となっていると考えられます。

2016年以降は2021年現在まで羽生氏はチェスの大会に表立って出ていないため非アクティブ状態となっています。

羽生氏がチェスをプレイしない理由は、年齢による将棋の実力の低下に加え、豊島氏や藤井聡太氏といった若手の出現により、将棋においても挑戦される側から挑戦する側になったために、チェスでなく将棋であっても強者と戦えるようになったからであると考えられます。

関連ページ:チェスプレイヤーの記事一覧



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