チェスのタクティクスのサクリファイスについてです。
直訳は生贄、日本語では捨て駒と言った方が分かりやすいでしょうか。相手にわざと自分の駒を取らせることで逆に有利になる場面で使う作戦です。
サクリファイスの種類と具体例
英語版のwikipediaからいくつかの具体例を紹介します。
ディフレクションサクリファイス(ずらし)
相手の駒の位置をずらすことを目的としたサクリファイスです。
以下の図はは2006年のアロニアン対スヴィドラーの対戦より、白のアロニアンがexd4とルークが突っ込めるスペースを空ける大悪手を指し、それを見逃さなかったスヴィドラーがRe1とした場面です。
白は同じくルークとして取る以外に選択肢がありませんが、守りが外れたクイーンをタダで取られてしまいます。
ポジショナルサクリファイス(どかし)
自分の駒をどかして、他の自分の駒をそこに移動させるためのサクリファイスです。
下図の例は1971年のスパスキー対タルで現れた局面です。
黒がd4とポーンを進めました。ナイトとビショップの両取りになっているので白はf3のナイトでこれを取ります。ビショップで取ると、黒のb7のビショップ切りからの手順で駒損になります。
そして黒は取られそうになっているf6のナイトをd5に移動させることができました
メイトのためのサクリファイス
チェックメイトを目的としてのサクリファイスです。
邪魔な駒をどかしたり、相手の駒をずらしたりすることでチェックメイトできるときに行います。
チェスプロブレム(チェス版の詰め将棋)でもよく出てきます。
下図はビショップを捨てることでチェックメイトになる例です。
白はビショップでチェックをします。黒はこれをポーンで取り返すしかありませんが、白が同じくクイーンとしてチェックメイトとなります(下図)。
スーサイドサクリファイス(処分)
自分の駒を処分することで強制的に引き分けに持ち込むサクリファイスです。
下図は1963年のエヴァンスとレシュフスキーの対局で現れた形です。
黒のレシュフスキーがQxg3と白のポーンを取った場面です。
この手の前まではほぼ黒番が勝ちの場面だったのですが、引き分けになる手順が発生してしまいました。
白はクイーンをg8としてサクリファイスします。黒がキングをg6に逃げるとRxg7とルークでスキュアされ、クイーンをタダで取られて形成が逆転するので取るしかありません。Kh6の場合はQh7から結果は同じになります。
黒番がg8のキングを取った次の手で、Rxg7とします。
チェックがかかっているので取るか、逃げるかしかありませんが、取るとステイルメイト、逃げてもひたすらルークでキングを追い掛け回されてパーペチュアルチェックになり、どちらにしろ引き分けとなります。
99%負けのゲームを引き分けに持ち込んだこのゲームは「世紀の引っ掛け」と言われています。(g3のポーンを餌に引っ掛けたから。)
サクリファイスとハリーポッター
人気小説および映画ハリーポッターシリーズ第一弾の「ハリーポッターと賢者の石」のストーリー中で魔法で動く巨大な駒と盤を用いたチェスが登場し、主人公3人組とチェス対決をします。
ハリー、ロン、ハーマイオニーはそれぞれ自身がチェスの駒となり戦うのですが、途中で勝つためにハリーかロンかどちらかをサクリファイスしなければならない場面が登場します。
結果的にロンをサクリファイスすることで勝利を収めるのですが、実際はハリーをサクリファイスした方が短い手順で勝つことができました。(下図)
この図の後は、Nh3(ロンをサクリファイス) Qxh3(ロンをクイーンで取る) Bc5 Qe3 Be3までです。
この内容に関しては別ページで詳しく解説していますので、そちらを参照してください。
関連ページ:ロンVS魔法使いチェスの棋譜解説(ハリー・ポッターと賢者の石より)
将棋の捨て駒
将棋ではサクリファイスのことを捨て駒と言います。
チェスと違い、取った駒も再利用できる上に好きな場所に打ち込めるので、様々な形での捨て駒があり、捨て駒する機会はチェスよりも格段に多くなっています。
具体例としては以下の詰め将棋が有名です。
手持ちの銀を打ったり、4一の銀を角で取りたくなりますが、正解は初手は角を5二に捨て駒します。
後手は銀で取るしかありませんが、左右の銀のどっちで取っても横から銀を打って詰みとなります(下図)。
「俺を捨て駒にしやがって」というドラマのセリフがありますが、実際の捨て駒は将棋でもチェスでも大活躍なのです。
ちなみにタダに見えるけど実は取ると形成が悪くなる捨て駒のことを将棋では俗に毒まんじゅうといいます。