グランドマスター級の卓越したチェスプレイヤーは短命であるというのは、欧米のチェスプレイヤーの間では知られた噂の一つです。
2000年にはとあるグランドマスターがゲーム中に脳卒中で倒れてそのまま亡くなりました。さらに同じ年に違うトーナメントで心臓発作を起こして亡くなったグランドマスターもいます。
2014年にはチェスの国別対抗戦であるオリンピアードでは、セーシェルの代表とウズベキスタンの代表のグランドマスターが1人ずつゲーム中に心臓発作で亡くなっています。
これらの出来事はチェス界では大きなニュースとなり、「トップレベルのチェス=死ぬほどストレスがかかる」という印象をプレイヤーに刻み付けました。
しかし統計をきちんと調べてみると、短命どころか平均的には一般人に比べてかなり長生きであることがわかりました。
研究内容
概要
研究者らはチェスのグランドマスターの誕生日と没日・出身地が記されているWikipediaのリストをあたりました。また国際オリンピック委員会のウェブサイトには13万人近くのアスリートの情報が登録されているため、その中から、チェスのプレイヤーと同じ出身地のメダリスト1万5000人のデータを抽出。その後、同じ国におけるチェスのプレイヤー、肉体的なスポーツ選手、一般人の平均寿命がどのように違うのかを比較しました。
その結果、「トップレベルのチェスのプレイヤーは短命である」という都市伝説が裏切られ、チェスの選手は一般人と比較して平均寿命が最高14年も長いことが判明しました。特に、ロシアなど、人々の寿命が比較的短い国において、この傾向が顕著だったそうです。また、チェスのプレイヤーと一般人の平均寿命の関係は、オリンピック選手と一般人の平均寿命の関係と似たようなパターンを描いてたとのこと。
GIGAZINEより一部抜粋
この記事の元となった研究論文は以下のものです。
Longevity of outstanding sporting achievers: Mind versus muscle
「チェス選手の寿命が一般人の平均よりも最高14年長い」というのは、国によって結果が異なっており、最も顕著に表れたロシアなどではチェスのグランドマスターと一般人の寿命が14年違ったということです。
世界全体で加重平均を取ると4年~5年程度長生きという結果になっています。
グランドマスターが長生きな理由
チェスのグランドマスターが長生きである理由として、グランドマスターになれるほどチェスに没頭できる選手は生まれも育ちも裕福なことが多いことが大きな要因であると考えられます。
まずグランドマスターになるためには強いだけでなく、世界中で開催されるトーナメントに何度も参加しながらGMノームと言う条件を満たしていかなければならないので、それだけで100万円単位でお金がかかります。
そしてそれぞれの国の平均寿命と平均所得はかなり強い相関があることが知られている(下図参照)ため、引用記事にある「ロシアなど、人々の寿命が比較的短い国において、この傾向が顕著だった」というものが経済格差によるものであることを暗に示していると考えられます。(ただしロシアは経済レベルの割にはウォッカのせいで平均寿命が短い。)
縦軸:平均寿命 横軸:平均所得
グラフ引用元:FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
まとめ
チェスは闇のゲームのごとく精神を削って短命になるという都市伝説は、統計上はウソであるということが結論付けられており、極めた人たちはむしろ一般人に比べて長寿であることまでわかっています。
この要因としてはチェスが体にいいというよりは、グランドマスターになることができる環境を用意できるほど経済的に恵まれているからだと考えられます。
つまり学歴のように、チェスの強さも親の年収が大事なのです。