伝説的な世界チャンピオンであるボビー・フィッシャー(本名ロバート・フィッシャー)についてです。
過去のチェスの世界チャンピオンはシュタイニッツやラスカー、カパブランカなど何人もいますが、ボビー・フィッシャーのように映画を作られるほど後世に語られるチャンピオンは他にはいません。
この記事では彼の生涯や経歴などはWikipediaに任せて、なぜ彼がそこまで特別なのかに焦点を当てていきます。
人物概要
来歴
ここではかなり簡略化した来歴を書いておきます。詳しくはWikipediaのボビー・フィッシャーのページを参照してください。
- 1943年生まれ
- 6歳:チェスを覚える
- 14歳:アメリカチャンピオン&インターナショナルマスターになる
- 15歳:グランドマスターになる(当時世界最年少記録)
- 19歳:引退
- 23歳:復帰
- 25歳:引退(2度目)
- 27歳:復帰(2度目)
- 29歳:ソ連のスパスキーを倒して世界チャンピオンになる(アメリカ人初)
- 31歳:タイトル戦の条件が合わないので戦わずして世界チャンピオン返上(引退、3度目)
- 49歳:アメリカが経済制裁中のユーゴスラビアで再三の警告を無視して試合をして米国籍をはく奪される
- 61歳:入国管理法違反で収容、そして結婚(相手はのちのJCA会長代行の渡井美代子)
- 62歳:アイスランドの市民権を得てアイスランドに移住
- 64歳:がんで他界
奇行
- 本人がユダヤ人なのに反ユダヤ思想と発言
- 世界チャンピオン戦(挑戦時)を1試合無断欠席
- 世界チャンピオン戦(タイトル保持時)を拒否してタイトル返上
- 米国が経済制裁している国でスパスキーと世界チャンピオン戦の再現対決をして米国籍はく奪
- 60歳を前に20歳そこそこのフィリピン人女性と子作り開始
- その女性に子供ができたが認知しない(これについてはボビー死後にDNA検査で父親はボビーでないことが判明している)
- 成田空港で入国管理法違反で捕まる
- 捕まったついでに結婚
フィッシャーの何がすごかったのか?
考えられるフィッシャーのすごさは以下の点だと思います。
圧倒的な実力
ボビー・フィッシャーはそれまでの世界チャンピオンと比べても圧倒的に強く、歴代最強のプレイヤーとして彼の名前を挙げる人も少なくありません。
特に1971~1972年の世界チャンピオン戦では、予選で対戦相手を完封したり、タイトル戦でも無断欠席によりスパスキーに1勝を無条件で献上しているにも拘らずフィッシャーが7勝3敗11引分とかなりの勝ち越しでタイトルを奪取しています。
AIによるレーティング推定では、歴代の世界チャンピオンの中で4位となっていますが、フィッシャーより上にいるのがカールセン(2013年~)、クラムニク(2000~2007年)、カスパロフ(1985~2000年)の3人なのでフィッシャーが世界チャンピオンを取った1972年時点では歴代最強だったと言えます。(スパスキーは9位でフィッシャーとの推定レート差150)
関連ページ:【AI解析】歴代最強のチェスチャンピオン上位5人【カールセンは何位?】
政治的な背景
フィッシャーが世界チャンピオンを取るまでは24年連続でソ連の選手が世界チャンピオンでした。
そして1970年代といえば米露間の冷戦下であり、両国は宇宙開発、スポーツ、科学、経済あらゆるもので国力を誇示している状況でした。
そしてチェスも例外ではありませんでした。
この状況下でアメリカ人であるフィッシャーが世界チャンピオンをソ連の選手から奪ったというのは世界的なニュースとされ、国とマスコミは彼を一躍ヒーローへと押し上げたのです。
つまりただのチェス世界チャンピオンではなく歴史の人となったのです。
奇行と実力のギャップ
圧倒的な実力と政治的背景で歴史の人となったフィッシャーですが、それだけでは映画になるほどの魅力はなかったと思います。
彼のストーリーを魅力的にしているのは、他人から見れば奇行にしか見えない欲求に素直なその行動の数々です。
それらの中にはマスコミに注目されているタイトル戦を欠席したり、世界チャンピオンになったと思ったらあっさりタイトル返上したりと、マスコミにどんどんと話題を提供するものもあり、それまでのチェスの世界チャンピオンとは比べ物にならないぐらいマスコミに登場し、そして一般市民の記憶に圧倒的に残っているのです。
記録より記憶と某野球選手が言っていましたが、ボビー・フィッシャーは記憶に残る世界チャンピオンとしては歴代1位でしょう。
ボビー・フィッシャーの名局
フィッシャー少年、13歳の時の対ドナルド・バーン戦の棋譜。のちに世紀の一戦と呼ばれる伝説の一局です。
以下後手黒番がフィッシャー、先手白番がバーン。
先を読み切りクイーンを取らせての勝利です。
クイーンを相手に取らせた後は、どんどん駒を取って結果的にフィッシャーが駒得状態になって勝ち切っています。
クイーンを犠牲にした場面のAI解析でも、その手が最善手であることが分かっています。
著書
これからチェスを始める人向けの入門書です。
他の入門書と違って、ルールを覚えたらとりあえず問題解け、というスタイルで構成されています。
なので序盤、中盤、終盤を体系的に学びたいという方には向いていませんが、電車移動などの空いた時間に数問解くという形で使うのには適しています。
映像作品
ボビー・フィッシャーを題材にした作品としては、フィッシャーの半生を描いた「完全なるチェックメイト(原題:Pawn Sacrifice)」が有名です。
また「ボビーフィッシャーを探して」というフィッシャー本人は出てこないもののタイトルに名前が入っている映画もあります。
どちらも別ページで解説していますのでそちらを参照してください・
関連ページ:観ておくべきチェスの映画3選