チェスの反則とペナルティについてです。
対局のルールは細かく決められていますが、もしそれに反する行為をした場合にはどのようなペナルティがあるのかまではよく知られていません。
このページでは実際の対局でよくある反則とそのペナルティについて見ていきます。
反則に対するペナルティ
チェスの反則に対するペナルティについてはルールを定めた協会・団体ごとに異なりますが、大まかな取り決めとして、持ち時間が長い対局では反則手のやり直しであったり、相手の時間増加といったペナルティであることが多いのに対し、短い持ち時間では即負けとなるなどペナルティがきつめになっていることが多いです。
このページのペナルティなどについては、2018年1月版のFIDEによるチェス規則を元とし、アービター(仲裁人)の判断に任せるとされているところについては、実際の試合でよく採用されているものとします。
またほぼすべての場合に共通ですが、あくまで対戦者が主張した場合のみ反則行為に対してペナルティや指し直しが適用されるので、対戦者がお互いに何も言わない・気が付いていない場合には反則とはなりません。
カンニング・ソフト指し
数ある反則行為の中でも最も重大な反則に位置付けられています。
AIが発達した現代のチェス業界においてはソフトを利用したカンニング行為によって初心者であってもグランドマスターを倒すことができてしまいます。
この反則を行った選手は大会の規模、持ち時間に関係なく反則負けとなり、さらにチェスの公式大会への参加を数年~永久にできなくなります。
過去には現役のグランドマスターが50代を超えて急にレートが上がり始めたということで行動をチェックされた結果、トイレ内でスマートフォンを使ってカンニングをしていたことが発覚したという事件がありました。
Touch move
将棋と一番違うルールかもしれません。
チェスでは駒を触ったら必ずその駒を動かさなければならない「Touch Move」という取り決めがあります。
そのため駒を触ったはいいが、指そうとした瞬間にそれが悪手だと分かった場合でも、必ずその駒を動かさなければなりません。
以下の動画はアメリカチャンピオンのヒカル・ナカムラがキングを触った瞬間悪手だと気づいたという動画です。
解説の人もキングを動かすと負けだとわかっているので「He touched king!?He touched king!?」と驚いています。
ナカムラはあくまで駒の位置を直しただけと主張したようですが、その場合には先に位置を直すことを宣言しなければならないので、アービターも認めませんでした。
このルールを無視して、触った駒と違う駒を動かした場合には非合法手となり、その手のやり直し(触った駒を動かすのが強制) + 相手に時間加算となります。
ただし触った駒が合法的に動かせる場所がない場合に限り、他の駒を指すことができます。
ちなみに将棋の場合には駒をつかんで、違う場所に動かし、指が離れるまでは好きなように動かすことができますし、駒を整列させるために触るのも認められています。
例えば駒をつかんで動かすと見せかけて元の場所に戻して違う駒を動かす、というフェイントみたいなことがルール上可能となっています。
実際にやる人はいませんが・・・(加藤一二三九段を除く)
待った
Touch moveの一種ですが、動かして手が離れた駒をもう一度動かす行為で、当然公式戦では認められません。
以下の動画では世界チャンピオンのマグヌス・カールセンが誰がどう見ても分かる待ったをしており、反則負けとなっています。
カールセンも「は?やってねーし」みたいな顔をしていますがどう見ても2回動かしています。
倒した駒を戻さない(Drop)
チェスの駒は縦に長いため、動かしたときに倒れることが良くあります。
倒れること自体は反則でもなんでもなく、きちんと直せばよいのですが、これを直さない場合には反則となります。
直すタイミングはチェスクロックを押す前、つまり自分の持ち時間が消費されている間に直さなければなりません。
通常の持ち時間の場合には倒した駒を直した上で相手に一定の時間加算のペナルティ、早指し戦の場合には反則負けとなることが多いです。
早指し戦では動かしたらすぐにクロックを押すため、駒を倒してしまったにもかかわらすそのままクロックを押してしまい反則負けとなることがあります(以下の動画参考、2分10秒あたりから)。
非合法手(illegal move)
動かせない位置に駒を動かす、チェック放置、キングの自殺手などチェスの合法手ではない手を指す反則です。
将棋では即反則負けとなる行為ですが、チェスの場合にはその手を指し直すことができます。
指し直す手に関してはTouch moveのルールが適用され、非合法手を指したのと同じ駒で合法手を指す必要があり、もしその駒に合法手がない場合に限り違う駒を指すことができます。
ペナルティはその対局で1度目なのか2度目なのかで異なります。
1度目のイリーガルムーブに関しては長時間の対局の場合は相手に2分加算、短時間の場合は1分加算です。
2度目のイリーガルムーブを行うと反則負けとなります。
携帯電話の着信・ぼやき等
意外なところですが、チェスでは独り言やボヤキといった相手の注意をそらすような行為は禁止されており、携帯電話の着信音についても規定があります。
そもそも先述のソフト指しの件があるため、対戦会場に携帯電話を持ち込むこと自体禁止されている場合が多いです。
もし持ち込みが禁止されていなくても、携帯電話の着信音が対戦中になった場合には多くの場合で即反則負けとなります。
ボヤキに関しては注意される程度ですが、以下の動画のレベルでぼやく囲碁の依田紀基九段はチェスの大会に出るのは厳しそうです。
キャスリング時にルークを先に触る
キャスリングに関してよくある反則が、先にルークを触るというものです。
キャスリングはキングとルークの2つの駒を1手で移動させることができるルールですが、駒の動かし方に決まりがあります。
キングを2マスルーク側に動かし、対象ルークをキングを飛び越した隣のマスに移動させます。
この際に先にキングを動かさなければならないので、まずキングから掴まなければなりません。
もしルークを先に掴んでしまった場合にはキャスリングはできず、Touch moveのルールにのっとりそのルークを移動させなければなりません。
もしキャスリングをしてしまった場合には非合法手となり、その手をやり直しとなります。
関連ページ:【ルール】キャスリング【チェスの囲い】